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36.偽妊婦出動!

術後の経過は順調で、発熱や腫れや化膿はない。
食事も全部食べられるし、貧血や卵巣欠落症状もない。
抗ガン剤治療など、後治療の予定もない。
なぜ私が退院できないかと言えば、腹部の左ドレンが抜けない、ただそれだけの理由なのだ。

ドレンが入っている間はドレンパックの処置があり、ドレン挿入部からの細菌感染を防ぐために抗生剤の点滴をしなければならない。
お風呂もダメ。シャワーもダメ。
洗面台に頭を突き出して自分でシャンプーができたので、かろうじて頭髪はきれいに保てたが、身体は温かい濡れタオルで拭くのがせいぜいだった。
都合のいいことに、抗生剤を打っていると体臭がなくなる。
排泄物の臭いもすっごく薄くなる。
吹き出物が消えて肌がきれいになる。
外部から入ってくる菌を殺すと共に、身体の中を全部消毒しているようなものなのかもしれない。

ドレン管は腹部の表皮に軽く縫いつけられているようだったが、強く引っ張れば抜けてしまうだろう。
そうなったらもう一度処置し直しだし、抜けたところから細菌が腹腔内に入ってしまう恐れもある。
そんなこんなで、私は元気なのに外出許可がもらえなかった。
退屈で退屈で困っちゃったよん。

Dr.コアラに何回かお願いしたら、ゴールデンウイークの最後の方になって、「じゃ、午後ちょっとだけね」と許可が下りた。


その日は快晴だった。
昼食の後、ドレンパックを空にしてもらい、外出申請書を書かされた。
これを出さないと、脱走したことになっちゃうんだろうな。
入院前、「手術したら、その後しばらくはお腹を締めつける服は痛いかもしれない」と考え、子供がいる妹から何着かぶんどった妊婦服を入院する時に持って来ててよかったぁ。

腹帯とドレンパックでお腹回りはカッコよく膨らんでいたし、傷に響くのでお腹や腰を押さえ、ガニ股でそろそろと歩く。
マタニティードレスを来た私は、どっから見ても妊婦さんであった。

夫に付き添われて病院から一歩外へ出ると、空気が変わった。
街の匂い、街路樹の匂い、土の匂い、排気ガスの匂いと、全部かぎ分けられそう。
そして、街の雑音がドワーッと押し寄せてきた。
脇を走る車、燦々と降り注ぐ5月の陽射し、行き交う人々…。
あぁ、刺激強すぎ。クラクラするぅ。
うげー、歩道って、こんなにデコボコしていたっけ?

病院の真っ平らな廊下を歩き慣れた足には、舗装された歩道の微妙なでこぼこすら辛い。
お腹の傷に響くのよ〜。
病院の中では歩きながら話せたのに、外で同じことをすると息が上がっちゃってダメだ。
夫はいろいろと話しかけて来たけれど、呼吸するのと歩くので精一杯だった私は、満足に答えることができなかった。
息を弾ませながら夫に言った。

「(はぁはぁはぁ)もうちょっと、(はぁはぁ)ゆっくり歩いて、(はぁはぁ)もらえない?」


私たちは、病院の近くにある大きなショッピングセンターへ行った。
どの店もゴールデンウィークを楽しむ人であふれ返っている。
以前、妊娠した友達が「マタニティー姿で旦那と歩くと『原因と過程と結果』を披露してるみたいで恥ずかしい」って言ってたけど、私たちもそう見られているのかな…。

ありがたいことに、偽妊婦の私へぶつかってくる人はいなかった。
みんな、ちゃんと避けてくれる。
よしよし。
お腹にぶつかってきたら殴るぞ!

人ごみを縫って本屋さんをのぞき、バラエティーショップをちょっとだけ見て、お姉さんに頼まれた外国製の煙草を1カートン買った。
そのすべてが終わっても、30〜40分程しかかかっていなかったのに、私はすっかりくたびれてしまった。
続けて歩いたし、立ちっぱなしだったからなぁ。

「疲れたよぉ」

「じゃ、ちょっと休もうか」

私と夫は喫茶店に入って、ケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。

「どこもいっぱいだし、もう疲れたから病院へ帰りたい」

「そっか。わかった」


ショッピングセンターの出口では、「東京プリン」という歌手コンビがショーをやっていた。
横を通りながらちらっと見たら、作りもののプリンをかぶり、おどけた振り付けで、面白い歌詞の歌を歌っている。

ダメ〜、笑わせないで!
まだお腹痛いんだから…。

プリンの片割れが下を向いたら、作りもののプリンの後ろには、ご丁寧にも「かじった跡」がついていた。
それを見たらもう、我慢できなかった。

「うぷぷっ。あはははははは」

確かに面白いショーだったが、私ほど笑っている人はいなかった。
みんなから不審そうに見られ恥ずかしかったのだけど、笑いは止まらない。
笑い過ぎて、お腹の傷が痛くなって来た。

「あいたたたた」

周囲の人は、笑いながら身体をくの字に折り曲げて痛がる私を、ぎょっとした顔で見ていた。
産気づいたわけじゃないので、ご安心ください。


病院に戻るとホッとした。
ここは静かで、平らで、時間がゆっくりと流れる。
外にいたのは1時間程だったのに、もうくたくただ。
あんまりくたびれたので、珍しく昼寝した。

入院中に外出したのはこの時一度きり。
最初で最後の偽妊婦経験となった。


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