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25.異邦人の憂鬱

人種が違っても生まれた国は違っても、同じ人間なのだから、身体を切れば血が出るし、ずっと起きていればいずれ眠たくなるし、動けば疲れる。
ハムスターさんの見舞客軍団は、私だけでなく、ハムスターさん自身をも疲弊させていた。

面会時間が終わり、軍団が帰ると、ハムスターさんはぐったり身を横たえて自分のベッド周りにカーテンを引いてしまう。
「今日はこれ以上誰とも会いたくない、話したくない」と表明しているようにも取れる行動だった。

彼女は日に日に弱っていくように見えた。
深夜、彼女の小さい唸り声が聞こえてくることもあった。
どこかがかなり痛いのだろう。

私自身はと言えば、昼間はハムスターさんの見舞客軍団を避けるために病院内を放浪していたし、夜はハムスターさんの苦しむ声が聞こえて来るので、横にはなれてもほとんど眠れなかった。
そのうちに、昼間、目を開けていてもぼーっとしているようになり、さっき食べた食事のメニューが何だったかなど、簡単なことすら思い出すのに苦労するようになった。
夢うつつの中で生活しているようだった。


そんなある日、その日は休日だった。
いつものように見舞客軍団が大挙してやって来た。
今日の人数は今までよりさらに多い。見たことがない年配の人もたくさんいる。
「一族がすべて集まりました!」という感じで、ハムスターさんのベッドは二重の人垣に取り囲まれた。
人数を数えたら、30人を超えていた。
どっひゃ〜!!

あまりの騒動に私は病室から逃げ出すことも忘れ、彼らをちらちらと盗み見た。
お姉さんもいぬさんも、あっけにとられたような顔をして見ている。
年配の男性が、集まった人に対して演説のようなことを行っていた。
人垣の間から時折見えるハムスターさんは、うつむいて話を聞いている。
いったい何なんだろう?

地獄のような面会時間が終わり、見舞客軍団がやっと帰った。
ハムスターさんはベッド周りのカーテンを引いて、中にこもってしまった。
そのうち、私の耳に不思議な音が聞こえてきた。

カサカサカサ
ガサガサ
シャリシャリシャリシャリ
パリッ
ポリポリポリポリ

その音は、一つずつ包装されたお煎餅を袋から出して開け、食べている音とそっくりだった。
音は、ハムスターさんの方から聞こえてくる。
そのうち、お煎餅の香りが漂ってきた。
ハムスターさん、食べてるな…。
彼女は絶食のはずなんだけど、食べて大丈夫なのかしらん?

消灯になり、部屋の電気が消されてすぐ、ハムスターさんのベッドがきしむ音がして、彼女はトイレへ駆け込んだ。
げーげー吐いている。
私はナースコールを連打した。

その晩、ハムスターさんは夜中の3時頃まで断続的に吐き続け、そのたびに私はナースコールを押すことになった。
いつものように睡眠薬を飲んだけれど、全然眠れなかった。
ここには昼も夜も静寂がない。
家で寝ていた方がよっぽど静かなんじゃないかと思った。


翌朝になった時には、ハムスターさんはもちろん、私もお姉さんもいぬさんもよれよれだった。
ぐったりと横たわったハムスターさんに「おはよう」と声をかけると、彼女はだるそうにちょっとだけ身を起こし、私に向かって、何か話したそうなそぶりを見せた。

「なぁに?」

「ゆうべはゴメンね。アリガト」

「具合悪かったんだから、しょうがないよ…」

私の母が乳ガンで抗ガン剤治療するために入院していた時、同室の患者さんから母にクレームがついた。
抗ガン剤のせいで吐くことが多かった母は、他の患者さんが食事をしている時にも吐いてしまうことが多々あり、他の患者さんは、食欲がなくなるから母と同じ部屋はもういやだと言うのだ。
患者さんの言うことはわかる。
しかし、わざと吐いているわけではない。母にはどうしようもできないことだった。
母は切ない思いをしただろう。

病人同士なのだから、私だって夜中に具合が悪くなってみんなに迷惑をかけることがあるかもしれない。
それはお互い様のことなので、昨夜のハムスターさんを責められないと思った。見舞客軍団はどうにかして欲しいけれど…。
軍団についての文句を言おうか言うまいか逡巡していると、ハムスターさんは私が仰天するようなことを語り出した。
彼女の「日本語」を要約するとこうなる。

私は家族みんなで日本へ来た。
日本には一族のお墓がない。
昨日は、ここに集まった親戚一同から、日本に私のお墓を買ったと言われた。
それを聞いても、私は何も言えなかった。

「コワイよ…」と絞り出すような声で言うハムスターさんの目から涙がこぼれ落ち、彼女はそれを手早く指で拭った。
昨夜は、お墓を買ったと言われたショックから「もうどうでもいいや」とやけっぱちになり、止められていた飲食に走ったようだ。
何と言葉をかけたらいいかわからなかった。
見舞客をどうにかしてくれなんて、とてもとても言えなかった。
私はハムスターさんにティッシュを渡し、彼女の手をぎゅっと握り締め、逃げるように病室から出た。

国によって習慣は違う。さらに家族ごとに考え方は違う。
ハムスターさんの国のことをほとんど知らず、彼女の家族でもなく、彼女の病状も知らない私には、お墓うんぬんに関して口の出しようがない。
何も言う権利がない。
ハムスターさんの不安な気持ちは痛いほどわかるけれど…。

その反面、勘弁してくれとも思った。
私に言われても困る。
重過ぎる愚痴だ。聞いていて辛い。

ハムスターさんは、外国で病気治療する時の難しさ、切なさ、辛さ、不便さに直面する、気の毒な異邦人だった。


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