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ホーム> メニュー> ぴょんぴょんのがんになっちゃった!顛末記> 11.手術当日

11.手術当日

結局、よく眠れないまま朝になってしまった。
朝5時。
最後の浣腸のため、ナースが呼びに来た。
もう出るものは、何にもない。
水分の中に、ひらひらとしたものがあるだけだった。

それからしばらくして、手術用の太い針だという点滴を入れた。
ずれたり抜けたりするのを防ぐためだろう、ナースが念入りにテープで固定している。
バルーン(尿管)も入れた。
入れる時は痛かったが、これが入っている間は、トイレの用事がなくなる。
手術用のガウンに着替え、名札のような腕輪を付け、その後、肩に術前の注射を打った。
この注射は、緊張を和らげるために少しボーッとする作用があると聞いていて、実際、この注射を打った後のことは何も覚えていないという幸せな患者さんも時々いるが、私はその栄誉に浴せなかった。
ちょっとホワッとはしたが、後は、やたらに口が渇いただけだった。


私の手術は9時からの予定。
夫は8時頃に来てくれた。
他に付き添いの家族や親戚はいない。
夫の両親、私の伯父伯母たちも来たかったのかもしれないが、手術の間、「ぴょんぴょん、かわいそう、かわいそう」と泣かれるのは火を見るより明らかで、それをなだめるのでは、夫はたまらないだろう。
それで、「たいした手術ではないから、来なくていいです」と断ってしまった。

病室に入ってきた夫は、手術前の私をどう扱ったらいいのかわからない様子で、それでも不安だけは取り除こうと思ったのだろう。
ベッド脇に貼ってあった手術前の手順を書いた紙を読んでから、私に聞いた。

「もう浣腸は終わったの?」

それを聞いたとたん、悔しくて涙が出た。
好きで病気になったわけではない。
そして、手術を受けるまで、下半身の穴という穴すべてを調べ上げる不愉快な検査を受けた。
入院中、甘えられる実の親もいない。
私の境遇は、世間一般の常識からすると「かわいそうな部類」に入るのかもしれない。
でも、みじめな気持ちにどっぷり浸かり、自分を哀れんで過ごすのは、私のプライドが許さなかった。
ガンを宣告されてから、がっくりした様子もみせなかったので、夫はそれを額面通りに受け取っていたのだろうか。
これから手術を受ける者にかける言葉が「もう浣腸は終わったの?」とは、あまりにも心ない言葉であった。
夫は、私が泣いたのを見て驚いたのか、興奮させてはまずいと思ったのか、それからはほとんど何も言わなくなってしまった。


9時前になって、いよいよ手術室に運ばれることになった。
なぎさ病院では、患者をストレッチャーに移すことはせず、病室のベッドのまま手術室へ運ぶ。
ナースが押すベッドの後ろを夫がついて来る。
エレベーターに乗ったら、ナースが言った。

「ぴょんぴょんさん、手術がいやでジンマシン出ちゃったんですってね」

「はい」

「もっと強くならなきゃダメよ」

「……」

これから手術だというのに説教までくらい、どうやって穏やかな気分になれというのだろう?
まったく、散々だった。


手術室の扉が近づいて来た。
ドラマなどでは、こういう時、家族が患者さんの手を握り、「頑張って」などと励ましの言葉をかける。
もしかしたら、本当に万が一だけど、ここから出て来る時、私が息をしていない可能性もある。
夫から、何かひとことあるのだろうと思ったが、何もなかった。
手術室に入る時、「じゃあね」と言おうと夫を見たら、彼は私に背を向け、家族控室の方へ歩きだしていた。
この時、心の底から「私には頼れる人が本当に誰もいない。これからも、とにかくすべて、自分でやるしかないようだ」と思った。


手術室の扉をくぐると、そこは術前の準備をするらしい大きな部屋だった。
まず、名前と名札を確認。
それから服を脱がされ、別の台に移され、本当に手術をする部屋に運ばれた。
無影灯の下に手術台があり、そこに移った。
はぁー、いよいよだぁ。脊髄麻酔が痛くありませんように…。

麻酔医らしき人が現れ、「左を下にして横向きになって、背を丸めて」と指示された。
術前に経験者から仕入れた話では、「くるんときれいに丸くなればなるほど痛くない」ということだったので、幅の狭い手術台の上で、必死に身体を丸めようと試みた。
しかし、たいして丸めもしないうちから、「あ、そんなに丸めなくていいです」と言われ、拍子抜け。
麻酔医は、私の背中で何かごそごそとやっている。

「今、脊髄麻酔をする部分に、前もって麻酔を打ってます。痛くないでしょ?」

本当に痛くない。ラッキー!
背中にテープを貼り付けているような感覚もする。
きっと硬膜外麻酔のチューブなのだろう。
それから、少し痛くなって、背骨に何か液体が入っていくような感じがした。

「今、脊髄に麻酔を打っています」

「うぅー」

痛くなかったと言えば嘘になる。でも、許容範囲内。
以前やった脊髄麻酔とは比較にならないほど痛くなかった。本当によかった。


麻酔を打ち終わって仰向けに寝かされると、手術室のナースが私の足に靴下をはかせたりしてくれた。
手術中の体温低下を防ぐためなのだろう。
はかせやすいよう、足を持ち上げて協力しようとしたが、自分の意思では、もう全然動かすことができない。
麻酔の効きはいいようだ。
仕方がないので、「すいませんねぇ」と言いながら、なすがままになっていた。

それから、麻酔医が私の口に酸素吸入器のようなマスクをあてた。

「深く息を吸ってください。今は酸素を送っています」

はいはい。すーっ。

「もう一度吸ってください」

はいはい。すーっ。

「次はガスを入れます。普通に呼吸して大丈夫ですからね」

はいはい。すーっ。

よくよく考えてみたら、私は術前に肺活量の検査をしていない。
使うガスの量はどうやって決めるのだろう?
そして、そのガスは、とんでもない匂いだった。
私はプロパンガスを吸わされているのかと思った。

「臭〜い!!」

思わず目を閉じ、文句を言った。
そして目を開くと、手術の始まるのを待った。
いつ眠くなるんだろう?

「時間は4時間12分…」
「血圧は70…」
「体温は34.7度。この人、あまり上がらなかったね」

男の人の声が、誰かの容体を話している。
この手術室には、かなり具合の悪い人がいるようだ。
そして、はたと思いついた。
一つの手術室に入る患者さんって、一人だけだよねぇ。
私のことを話しているんだ!
血圧も体温も低いようだけど、べつに苦しくも何ともない…。
ただ、喉が痛かった。
昨日、術後、人工呼吸器のせいで喉が痛くなると言われたなぁ…。
あれ?
ということは…?
ちょっと顔を動かして回りを見たら、そこはやっぱり手術室で、私は病院支給の病衣を着せられていた。
じゃ、手術、終わったんだ。さっき、「時間は4時間ちょっと」って言ってたし。
あの臭いガスを吸わされたのは、今だと思ってたのに、もう、手術終わっちゃったんだ…。

術後1日くらいは、ぼーっとして過ごすのかと思っていたのだが、私は手術室で意識が戻った。
さっきの話からすると、手術の時間は、予定よりも少しオーバーしたようだ。
夫は待ちくたびれただろうな。他に誰かいた方が時間つぶせたかなぁ…。


手術室から術前の準備をする大きな部屋に戻ると、病棟のナースが迎えに来てくれていた。
私が寝たベッドが手術室から運び出されると、夫が近寄って来た。

「お待たせぇ!」

しかし、夫は私の言葉に返事をせず、ベッドの脇を黙って歩いている。
どうやら、私の意識が戻っているとは考えもせず、うわ言かなんかを言っていると思っているらしい。
ナースが夫に、「奥さん、お待たせって言ってますよ」と言ってくれ、夫は不思議そうな表情を浮かべた。
自分でも、どうして手術室で目が覚め、それ以来、どうにかシャッキリしていられるのか不思議だった。


病室に戻ると、電気毛布を掛けられ、鼻に酸素吸入の機械を付けられ、腕には自動加圧式の血圧計がはめられた。
さらに、体内の酸素濃度を調べる機械のため、指にクリップのようなものをつけた。
その他にも、バルーン、点滴など、身体中からいろいろな管が出ている。
他人からは、出来損ないの人造人間のような姿に見えただろう。
頭の上で酸素の機械がボコボコと音をたて、うるさい。


なぎさ病院では、最近、病室での盗難事件が頻発しているらしい。
そのため、各人の床頭台に小さな金庫をつけることになった。
私の床頭台には、私が手術室へ行っている間に金庫がつき、夫が使い方の説明を聞いておいてくれたようだ。
夫は何を思ったか、病室へ戻ったばかりの私に、金庫の使い方の説明をはじめた。
「ここにこれを入れて、これをこうして」と言われても、身体が起こせないので見えず、よくわからない。
込み入った説明を聞きたい気分でもなかった。
目をつぶって適当に「うん、うん」と返事していたら、「ま、いいか。今話しても、わかんないよねぇ」と言われた。
その通り!


病室に戻って来てしばらくの間は、話をすると息がハアハアしてしまい、まいった。
肺が十分膨らんでいないような感じ。
意識して、腹式呼吸を試みた。
これは、後々、いい結果につながったと思う。
というのは、私たちは普段なにげなく話したり、呼吸しているのだけれど、その時、けっこうお腹の筋肉などが動いている。
そして術後数日は、その動きすら痛く感じる時がある。
麻酔が効いている間は、当然のことながら深呼吸しても痛くないので、この時に動かしておいた私は、後々が楽だった、と思う。

病室で鼻につけられた酸素吸入の機械が私の鼻の穴の間隔より広いためにフィットせず、自分で押さえながら寝ていた。
まったく、ギャグみたいだった。
下肢はまだ動かせない。脊髄麻酔が切れていないのだろう。
上半身を少し動かしてみたが、痛みはなかった。
気分も悪くない。
ただ、物事を考えるのが面倒臭いのと、目をつぶっていたかった。


数人のナースが見物に来た。
どうも、私は珍しいタイプの患者のようだ。

「本当にわかる?」

「はい」

「ぴょんぴょんさん、お酒強い?」

「強い!」

「『強い!』だって。きゃは〜」

お酒が強いと麻酔のキレがいいのだろうか。
私の返事に喜んでいただけてよかったです。
でも、少し静かに寝かせてくれ〜。


午後の面会時間になって、姑が来てくれた。
彼女はそっとベッドに近づくと、私を見下ろし、夫に話しかけた。
その話に私が加わると、姑は仰天した。

「話せるの?」

「はい」

「でも、ぴょんぴょん。話しちゃダメよ!」

「大丈夫ですよぉ」

「静かに寝かせておいて、話しかけたりしちゃいけないのかと思っていたわ」

「大丈夫!」

姑は安心したようだった。
私は脊髄麻酔が切れてきた足を少し動かして見せ、姑をさらに安心させた。


私の今までの経験から言うと、手術が終わったばかりの患者は、はた目から見ると非常に痛々しく、そして、ヘンなことをしたり、言ったりする。
私の周囲には大きな手術を受けた経験のある人が少なく、歳をとった人は多い。
そのまま何事もなく一生を終えられればいいのだが、病気になって手術という可能性だってある。
私が痛がれば、彼らは手術に対して恐怖心や嫌悪感を持つかもしれない。
そういう意味もあって、手術への付き添いを断ってしまったが、これなら「来て、来て」と言えばよかった。
みんなが持っているだろう病気や手術に対する不安を取り除く役目が、少しはできたかもしれない。
手術の経験がない人の前ではなるべく「なんでもない、痛くなさそう」に装うつもりだったが、本当にたいして痛くなかったので自分自身もホッとした。

夫と姑は喫茶店へ話をしに行き、私は目をつぶった。
今はいいけれど、これから数日間はきっと痛むだろう。
眠いという気はしなかったが、目を開けていると疲れた。
その午後は、浅く重苦しい眠りを漂うという感じで過ごした。
夫と姑は帰る時、「じゃあね」と声をかけてくれたが、目を開けるのが面倒で、布団をかぶって「うんうん」とうなずいたと思う。
手術当日の午後のことは、あまりはっきりと覚えていない。


夜になって、Dr.パンダとDr.コアラがやって来た。
Dr.パンダが言った。

「ぴょんぴょんさん、どう?」

「はぁ…」

「手術は無事に終わりましたよ。目に見えるところに転移はありませんでした」

「そうですか」

「病理の結果が出るまでははっきり言えませんが、たぶん、大丈夫でしょう」

「はぁ…」

Dr.コアラが続けた。

「今は痛いでしょうが、なるべく大きく深呼吸して…」

「はい…」

深呼吸すると、酸素が多く取り入れられて回復が早いのか、何か特別にいいことがあるかもしれないが、その説明を求めるのは面倒だった。
とにかく、意識してお腹を膨らませ、腹式呼吸は続けた。
Drたちはにこにこして行ってしまい、私はまた目をつぶった。


下腹部に鈍痛がある。
それから、背中からお尻まで、背面全体が痛い。
手術当日は、まっすぐ上を向いて寝ているだけで、寝返りがうてない。
また、手術の間は長時間ぴくりとも動いていないはずで、床擦れといったら大袈裟だが、それに近い状態になっているのだろう。
そして、なぎさ病院大部屋のベッドは、地面のような固さで、枕は小石を詰めたようなしろもの。
キャンプに行って、地面に直接寝ているような「拷問ベッド」だった。
このベッドには、最後まで泣かされた。


消灯時間が過ぎた。
手術直後だというのに、やはり眠れない。
うとうとはしているようだが、ちょっとした物音で目が覚めてしまった。
隣のご婦人のいびきも賑やかだ。
今晩も私は、夜勤決定みたい…。

ナースは来るたびに私の尿量を調べ、首をひねっている。
そのたびにバルーンを引っ張られ、痛くて起きた。
それから私の布団をめくって、何かをコップに開けている。

「なにしてんの?」

「ドレンの水を空けているのよ」

リンパ郭清した私のお腹には、浸出液(?)を排出するためのドレン管がつけられるとの説明は、前もって受けていた。
管の先には排出された液を溜める袋がついているらしい。
本当に郭清しちゃったんだ…。


深夜近くになっても、全然眠れなかった。
そして、私の尿量を調べて首をひねっていたナースが、注射器を持ってやって来た。

「ぴょんぴょんさん、尿が出ていないので、点滴に利尿剤を入れます」

「えーっ!」

私の腎臓は、手術でびっくりして、働くのをやめてしまったらしい。
点滴でどんどん水分を入れているのに、尿が出なかったら、身体がむくんでしまうだろう。
思わず手を見たが、まだむくんではいないようだ。
利尿剤が効いてくれるといいのだけれど…。


夜中を過ぎ、ナースに聞かれた。

「ぴょんぴょんさん、眠れないの?」

「はい」

「手術を受けたばかりだから、眠れないのはやっぱりまずいわ。痛くないみたいだけど、鎮痛剤を打ちます」

「?」

「痛み止めだけど、眠くもなるの」

「はい…」

ナースは、点滴に鎮痛剤を入れ、私はしばらく寝たようだ。
寝たといっても自然の眠りとは異なり、周囲の物音は聞こえていたように思う。
そのうち、自分が息を吐いたまま吸っていないのに気がついて、びっくりして目を開けた。
ベッドの周囲は、まだ暗かった。
息を吸っていないと思ったのは、夢だったのかな?
私は再び目をつぶった。
周囲の物音は、やはり聞こえるような気がした。
実際の音なのか、夢の中のことなのか定かではないが、自分の荒い呼吸音まで聞こえているような気がした。
そして、どのくらい経ったのか。
私は再び、自分が荒く息を吐いたまま、吸うのをやめていることに気づき、どきっとして目を覚ました。
私には合わない鎮痛剤だったのかもしれない。
外は少し明るくなっていた。
眠ったら息が止まっちゃうんじゃないかとドキドキしたが、またうとうとして、目を覚ます。
そんなことを繰り返して、正真正銘の朝が来た。


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