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27.リエゾン

それでもやはり、私は猛烈に怒っていた。
傍若無人な見舞客軍団、理不尽に思われる部屋変えの申し渡し、私を妊婦部屋に入れようとした病院側の考え、病院では病室のベッドにしか「私の場所」がないのに、ゆっくり落ち着かせてもらえないこと、夜も昼も満足に眠れないこと等々、もう何を取っても腹の立つことばかり。
噴出する怒りに自分を正当化する数々の理由を付け加えて数え上げ、その反面、自分はすごくわがままな主張をしているのではないかと、こっそり心配もしていた。

プンプンしながら朝食を食べ、いろいろと思い出してはまた腹を立てていたら頭痛までしてきた。
私は、回診に来たDr.パンダに「頭が痛い」と訴えた。
Drはしごくあっさり言った。

「更年期だな」

こいつ、何にもわかっちゃないな。腹立ちのタネが増えた。
昼も夜も満足に寝られない日が続いたら、頭だって痛くなるでしょうよ。
そんで何、あなたの診断は更年期?
ふざけるな!と思った。
私の診断では、静かにしてもらえれば治るはずですっ!


回診の後、ナースが持ってきてくれた頭痛薬を「こんなんじゃ治らない。薬じゃ治らない。いらない!!」とすげなく突っ返した。
お姉さん相手に愚痴でもこぼせば、少しはすっきりするだろうけど…。
でも、向こうも病人だから、人の愚痴を聞きたい気分じゃない時だってあるだろう。
私はちょっと考えてから、ナースステーションに行った。

「カウンセラーに会いたい。カウンセリングを受けたいんです。心療内科に予約を入れてください」

「うちの病院、心療内科はないんです」

「じゃあ、ソーシャルワーカーはいますか? 話を聞くことを仕事にしている人に会いたいんです」

「手配してみますね」

病室に戻ってしばらくするとナースが呼びに来て、私はデイルームに連れて行かれた。
デイルームのテーブルで私の差し向かいに座ったナースは、人目をはばかるように身を乗り出して言った。

「カウンセラーに会いたいと言うことでしたが…」

「はい」

「先生とお話する『リエゾン』というのがあるんです」

それでいいじゃん。上等!

「その…。精神科の先生がお話を聞くんです」

「はい」

ナースは私の反応をうかがっている。
なんか問題あるの?
あ、そうか…。

「精神科」という言葉を出すと、拒否反応を示す患者さんがいるのだろう。
「自分は病気なんかじゃないっ!」と怒り出す人もいるという話を聞いたことがある。
患者の心の内を聞く診療科があるとしたら、やっぱり精神科でしょうね。
耳鼻科や外科が担当とは思えない。それは、私にも理解できた。
私は自分が精神的な病気だと思えなかったが、専門家にジャッジしてもらうのもいいかもしれないとも思った。
こんなに立腹するのは私が病気なのか、わがまま過ぎるのか、それとも私の怒りは正当なものなのか、ちゃんとした専門家からアドバイスが欲しかった。
もし病気だったら、治療もしてもらえるし…。

バカ親父が死んでから今まで、とにかくいろいろあり過ぎた。
ガンにだってなったんだもん、精神的な病気にだってなるかもしれない。
人生、「私だけは大丈夫」なんてものは何にもないのよ。

それに、相手構わず愚痴をこぼすことは、私のプライドが許さなかった。
リエゾンは医療行為の一環だろうから、「ここは愚痴をこぼしていい空間、時間です」とお互いに納得の上で行われるはずだ。
いやがる相手をつかまえたり、相手の都合も考慮しないで愚痴をこぼすのとは違う。

「精神科でも一向に構いません。予約入れてください」

「本当にいいんですね?」

「はい」

「わかりました」

数日は待たされるんだろうと思っていたが、私はその日の昼食前、精神科に行くよう言われた。


なぎさ病院の精神科は人目につきにくい位置にあり、なかなか配慮が行き届いていた。
診療科自体が外部から見えないようになった造りで、出入り口は一つしかない。
物腰の柔らかい、感じのいいナースが一人常駐して、部屋に入ってくる人の予約を確認し、無関係な人の侵入を防いでいた。
すごく座り心地のいいソファが置かれた明るい雰囲気の待合室には、2、3人の人しかいない。
壁に、精神科は一人30分の完全予約制であると書かれた紙が貼ってあった。
待っている人たちは患者さんなのだろうけれど、普通の人と何ら変わりなかった。
わめいたり、うつろな目をした人がいるのかもしれないと思っていた私は、自分の先入観を深く恥じた。


少し待たされた後、診察室に招き入れられた。
へぇぇぇ。
他の診療科とは全然違う!
診察室は完全な個室で、窓があり、ブラインド越しに陽射しが差し込んでいる。
ちょっとした会社の役員室みたいだった。
椅子も高そうだし、壁にはいい雰囲気の絵がかかっている。
ここには、注射器や薬は置かれていない。
そして、Drは白衣を着ていない。
閉塞感や威圧感といった、患者を不安にさせる要素は極力排除しているように思われた。

椅子に座るとDrは言った。

「オペから日が浅いのに、ここまで来てもらってすみませんでした。こちらから病棟へ行ければよかったのですが、予約が立てこんでいまして…」

じゃあ、私の予約は無理して入れてもらえたんだ。
は〜、すまんこってす。

「初めに…。ここで話すことは、もろちんここだけの話にします。ぴょんぴょんさんがカルテに記録して欲しくないとおっしゃるなら書きません」

へぇぇ、そういうことから気にする人もいるんだ…。
ふぅん。

それから私たちは話し始め、初めに家族構成や既往症などを質問された。
次に、私が今、腹を立てている一連の出来事を話した。
隣のベットに見舞客がいっぱい来る、面会時間中ずっといる、その人たちがうるさくて寝ていられない、見舞客に部屋を動き回られてイライラする、その人たちにトイレの出入りをじろじろ見られているようで気に障る、寝ていられないので病院内を放浪し身体が痛い、夜になると見舞客の相手をして疲れた隣の患者の具合が悪くなって一晩中唸っている、結局私は昼も夜も眠れない、それでもう疲れた、病院側にクレームをつけたら私が部屋変えさせられそうになって納得できない等々、不満のありったけを述べた。
最後に、私は聞いた。

「そういうことで、腹が立ってしかたありません。私はわがままでしょうか?」

「そうは思いません。お見舞いの人がうるさいのは、婦長に言って注意してもらった方がいいよ」

「ゆうべ、ナースに伝えたので、うるさかったら注意してくれると思います」

「そうですか」

「私は精神的な病気ですか?」

「病気だとは思えません。あなたには薬も必要ないでしょう。でも、もし辛かったら、軽い薬は出してもいいですが…」

なんだ、やっぱり私は病気じゃないのか。この怒りは正当なものなんだ…。
見舞客軍団が悪いのに、こっちが精神安定剤を飲んでしのぐのは、まっぴらごめんだよ〜ん。
Drは、「ガンになったこととか、子宮喪失感うんぬん」とも言っていたけど、それは私には当てはまりませんので、念のため。

私は結局、薬はもらわず、でも不満は全部ぶちまけたので、すっきりして病室に戻った。


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