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28.国際紛争勃発!!

病室に戻るともう昼食の時間。
食べながら、私は思った。
今日も見舞客軍団は来るんだろうなぁ。
病院側は本当に注意してくれるのだろうか。軍団は注意を聞くのだろうか。
ハムスターさん本人と軋轢を起こすことだけは避けたかった。
彼女は、それでなくてもいろいろと切ない思いをしているはず。
偽善かもしれないけど、でも、これ以上ハムスターさんを悲しませることはしたくなかった。
やっぱり病院側へは何も言わないで、黙って我慢した方がよかったのかな…。
でも私も限界。
私はここから出たら妊婦部屋行きだから、この部屋にいたい。
ハムスターさんを追い出すわけにもいかないだろうしなぁ。
見舞客軍団が静かにしてくれれば、何も問題はないわけよ。
軍団、頼むよ〜。


面会時間になると、いつも通り見舞客軍団がやって来た。
ハムスターさんは、鎮痛剤が効いて眠っている。
旦那さんは、ハムスターさんの肩を揺すって起こした。
彼女が痛くないのは眠っている時だけだろうに…。
病気が治って欲しいと願っているのか、早く死んでしまえと考えているのか、彼らの行動は、私には理解不能だった。

いつものように騒がしい病室にナースが現われ、「こんなにいっぱい人が来ては病人が疲れます。時間を区切って少人数ずつ会ってください」というようなことを言って帰った。
見舞客軍団は少人数が部屋に残り、他は廊下に出て行った。
病院との約束は守ってもらえた!
これで少しは静かになるだろうと思ったのだが…。

廊下に出た軍団は、そこにそのままたむろして、自分の面会の順番が回ってくるのを待っている。
わいわいと賑やかな会話のトーンもそのまま。
声をひそめるということを知らないのだろうか。
ここをどこだと思ってるの?
あんたたち、いったいどういう神経してるのよ!!

そして見舞客軍団は、なぜ少人数で会うように申し渡されたのかピンと来たようだ。
部屋に入ってくると、まず私たち同室の患者を睨みつける。廊下で会っても睨みつける。
それは逆恨みだよぉ。

売店へ買い物に行ったお姉さんが、激昂して帰ってきた。
お姉さんは病室に帰ってくる前、婦人科病棟にある車椅子用のトイレに立ち寄ったのだそうだ。
先客がいたので出てくるのを待っていたら、軍団の一人が出てきて、そして、トイレの中には煙が漂っていたと言う。

「トイレで煙草吸ってたのよ!」

「ええっ!」

ちゃきちゃきのお姉さんは、「ここで煙草吸っちゃダメじゃない!」と怒ったらしい。
相手は「ワタシ、吸ってない」とシラを切ったそうだ。
お姉さんは、「とんでもない人たちだ!」と、軍団にも聞こえるような大声で怒っている。
私は現場を見ていないから何とも言えないけど、軍団の今までの言動から考えれば、お姉さんの言うことは充分信じられそうに思えた。

病室内に電話の呼び出し音が響き、軍団の一人がバッグから携帯電話を取り出して話し始めた。
私とお姉さんは顔を見合わせた。
おいおい、ここは病院だよ…。

今や、見舞客軍団は、すっかりふて腐れていた。


やっと面会時間が終わり、消灯になった。
ハムスターさんは鎮痛剤を使っているから、今晩は静かに寝てくれるだろう。

しかし、午後10時過ぎから彼女は苦しみ出した。
カーテン越しに、うんうん唸る声と、苦しみのあまり頻繁に身体を動かしている音が聞こえてくる。
私はナースコールを押した。

昨夜と同じようにDrが呼ばれ、ポータブルレントゲンが運び込まれた。
かなり時間のかかる処置が終わり、今夜はハムスターさんに酸素吸入や心電図がつけられた。
そして、ナースとDrは出て行った。

心電図の機械が置かれたのは、私とハムスターさんのベッドの間。
一晩中、ピッピッピッという音と、酸素吸入のボコボコという音に悩まされた。
こういうのって、ありか?


ほとんど眠った気がしないまま朝になり、洗面所へ歯を磨きにいった私は、鏡を見てびっくりした。
頬がこけて、顎がとがっている。
毎日のように病院の美容室でエステはしてるけど、その成果だけだとは思えなかった。
睡眠不足とストレスは、自分で思っている以上に深刻みたい…。
いぬさんに「おはよう」と言うと、いぬさんは驚いたような声を出した。

「ぴょんぴょんさん、あなた…。顔が細くなってるわよ!」

「………」

そう言ういぬさんだって、目が落ち窪んでいる。
「おはよう」と言うお姉さんの顔色は白かった。
みんなも眠れなかったようだ。
お姉さんが憤慨したような声で「もう我慢できない」と言った。

朝食が終わると、お姉さんと私は主任ナースをつかまえ、ハムスターさんの見舞客に関する苦情を再度述べた。

とにかくうるさい。
トイレで煙草を吸ってるようだ。
病室で携帯電話をかけている。
見舞客が帰るとハムスターさんの具合がてきめんに悪くなり、見ていてあまりにもかわいそうだ。
こちらにも迷惑がかかる。
どうにかして欲しい。


その日の午前中のうちにヘルパーさんが病室へ来て、ハムスターさんの荷物をまとめ、ハムスターさんは集中治療室へ移されて行った。
集中治療室へは勝手に入れない。面会を希望する場合は病院の許可が必要だ。
ハムスターさんの具合が悪いのではなく、見舞客の管理をするための措置と聞いた。
私の隣のベッドには、ペンギンさんという人が入った。

私はその日まで、かなり激しい下痢をしていた。
朝、ナースへ申告する時に「小10回、大10回」などというのはザラだった。
ハムスターさんが移されて行き、見舞客軍団と会わなくなってから、大の申告回数は大幅に減った。
私の下痢は、ストレスから来るものも多かったのだろう。

ハムスターさん本人や、ハムスターさんの国に敵意はない。
結果的に、ハムスターさんをいじめ出してしまったようで、今でも後味は悪い。
でも、ハムスターさんのところに来た見舞客軍団のことは、永久に許せそうにない。


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