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ホーム> メニュー> ぴょんぴょんのがんになっちゃった!顛末記> 19.ガン病室の夜

19.ガン病室の夜

なぎさ病院の病室は、眺めがよかった。
窓際のベッドだった私には春の日差しが降り注ぎ、気分まで明るくなるよう。
しかし夜になると気が重くなる。
ここは病院なのだ。
斜め向かいがナースステーションなので、誰かがナースコールを押すと、それに答えるナースの声が聞こえて来る。
深夜、ナースステーションから走りだして行く慌ただしい足音が響く。
「ああ、誰かの具合が悪くなったのかな」などと考える。何でもないといいな…。


私は術後、せっせと歩いていたのだけれど、それでも絶対的な運動量は少ない。
身体が疲れないので、いつも寝付きが悪かった。
9時の消灯に睡眠薬を飲むと、深夜の12時には目が覚めてしまう。それからは絶対に眠れなかった。私は元々、眠りが浅いのだ。
大部屋だから、他の患者さんに迷惑はかけられない。
ベッドの電気をつけて読書もできない。テレビはあるが見られない。
ただ横になったまま天井を見たり、時計を見たり…。
もんもんとして朝を待つことが多かった。
しばらくしてからは、深夜12時まで起きていて、それから睡眠薬を飲むようにした。
それでも、朝の5時くらいには目が覚めてしまうのだが、深夜から朝まで起きているよりも精神衛生上はいい。


私と向かい合わせのベッドにいたきりんさんの具合は、どんどん悪くなって行くように見えた。
私がこの病室に来た日には、向こうから話しかけて来たりもしたのだけれど、2、3日経つと口を開くことがなくなり、ほとんど一日中、「爆睡状態」という感じで眠っているようになった。
体調が悪いので、抗ガン剤も中止されたようだ。
ご主人は毎日、仕事の帰りに顔を出してまめまめしく世話をしていた。大変だっただろうと思う。

休日になると、きりんさんの2人のお子さんがお見舞いにやって来る。
時々目を覚ましたきりんさんは、何ごとかお子さんたちに話かけていた。
しかし、会話は続かない。話の途中で、いつの間にか彼女はまた眠ってしまうのだ。
小学生と中学生らしいお子さんたちは、ベッドのそばに座って、母親の寝顔を飽きずに眺めていた。


そんな日々が何日続いただろう。
ある夜の深夜、きりんさんの息遣いがいやに荒いなぁと思った。
軽いいびきをかいているような呼吸音で、しかも、時々それが止まる。
消灯後は、みんなベッドのまわりのカーテンを閉めているので、私から直接きりんさんの様子は見えない。
しびきが止まっているだけならいいのだけれど、呼吸が止まっているのなら大変だ。
どうしよう、ナースを呼んだ方がいいんじゃないかと考えていると、いきなり、きりんさんの方から「がふっ」と吐いているような音がした。
私はびっくりしてナースコールを押し、やって来たナースに言った。

「きりんさん、吐いたみたいよ。それに、息が時々止まってるみたい」

ナースは、きりんさんのベッドに行き、彼女を起こして、「今、吐いた?」と聞いている。寝ぼけたような声のきりんさんが「う…。ううーん」と答えるのも聞こえた。
あれ、私の勘違いだったのかな。ナースにも、きりんさんにも、悪いことしちゃったな…。

朝になり、検温で回って来たナースがきりんさんを見て言った。

「あれ…。吐いちゃった?」

きりんさんの服の一部が汚れていたらしい。
やっぱり、昨夜の音は、吐いてる音だったんだ…。
きりんさんは、自分が吐いたのもわからないくらい意識がもうろうとしているらしい。
誤嚥しなくて幸いだったけれど、ひとごとながら、大丈夫なのかなぁと心配になった。

その日の昼間、きりんさんは一日中眠っていた。
ちょっと目を開くことはあるけれど、またすぐにいびきをかいて眠ってしまう。
彼女は食事を止められているわけではないのだが、食欲がまったくないらしく、食事に手をつけない。
そのため、栄養補給の点滴はついていたが、他に薬を使っている様子はないのだ。
何であんなに爆睡できるのだろう? かなり具合がわるいのかなぁ…。

夜になった。
夜の点滴や検温など、消灯前のいつもの儀式が終わり、部屋の電気が消された。
私はベッドに横になって、「早く夜中の12時にならないかな。そしたら睡眠薬を飲んで寝るぞ〜」とか、「きりんさんの旦那さんは毎日顔出してすごいなぁ。うちの旦那は手術後、一度も来やしない。だけど人のことをうらやんでもしょうがないな」などということをぼんやり考えていた。

突然、きりんさんの方から昨夜と同じく「がふっ」という音がして、その後、「ぜぇぜぇ」と苦しそうにあえぐ声が聞こえて来た。
吐いて、気管に入ってしまったのかもしれない。
私はナースコールを連打した。

ナースが駆けつけ、吸引などの処置が始まった。
消灯後なのでカーテンが引かれていて見えないが、どんなことが行われているか、音は聞こえて来る。心電図などの機械も運び込まれているようだ。
それからDrが呼ばれ、ナースの人数も増えて、深夜の病室は大騒ぎになってしまった。
昨夜と違い、今夜のきりんさんの容体はおおごとらしい。
「バイタルは?」「苦しそうだから酸素マスクをつけよう」など、Drが次々に指示を出している。

最後にDrは言った。

「きりんさんの病室を移そう。今、どこの個室が空いてる?」

ああ…。
旦那さんは毎日来てたのに。
小学生と中学生の子供だっているのに。

私のベッドを囲むカーテンの向こうに、きりんさんを乗せたストレッチャーのシルエットが浮かぶ。
ストレッチャーが動き出すと、私は心の中で声援を送った。
きりんさん、頑張って!

ガン病室の夜は、急変が多かった。
だから私は、今でも夜が嫌いだ。


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