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17.ガン病室の人々

ハムスターさん、いぬさん、きりんさんと同じ病室で過ごす日々が始まった。

初対面の時、私を上目使いで見るだけだったハムスターさんは、日本の人ではなかった。
10年以上前、アジアのある国から、一家で日本へ来たのだという。
彼女はずいぶん前に手術を受け、抗ガン剤治療もやっていた。
あまり具合がよくないらしく、トイレに行く以外、ベッドから離れることがない。
腹水が溜まり、寝ているより上体を起こしている姿勢の方が楽なようだ。
ベッドで上半身を起こし、肩で息している様子は、見ているだけで辛そうだった。
そして、言葉の問題か本人の希望かはわからないが、痛み止めや治療を拒否しているらしい。
彼女は身体がしんどいのでほがらかに話す元気などなく、また、私たちと普通に意志疎通できるほどの日本語能力が身についていなかった。
こちらも自分の身体のことで精一杯で、辛抱強くハムスターさんの「日本語」に耳を傾ける余裕がなかった。
彼女は、深い孤独を抱えているように見えた。


品のいい、いぬさんは、本当に「いいとこ」のおばあちゃんだった。
ほんわかした感じで、いぬさんとそのご家族には、いろいろとお世話になった。
いぬさんの息子さんの奥さんは、身の回りの世話をしてくれる人がいない私を気遣って「よかったら、洗濯ぐらいしてあげる。言ってね」とまで申し出てくれた。
実際にお願いすることはなかったけれど、とてもありがたい申し出だったと感謝している。


きりんさんは、小学生と中学生になる2人の子供がいるお母さんだった。
彼女は、人工肛門になったらしいのだが、その状態をどうしても受け入れることができない様子で、時々こっそり涙を拭っていた。
術後の体力回復を待ち、数日前から抗ガン剤治療に入ったきりんさんは、もうかなり長期間入院していて、傷の痛み、人工肛門になったショック、抗ガン剤治療のトリプルパンチは、彼女の衰弱した身体にかなりのダメージとなっているようだった。
きりんさんの旦那さんは毎日来て、まめまめしく世話をしていた。

初対面の時、ハムスターさんときりんさんからは敵意めいたものを感じたのだけれど、どうやら私の思い過ごしだったらしい。
二人とも体がしんどくて、愛想など振りまける状態ではなかったのだ。


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